よく「○○ちゃんはお父さんに似て運動神経がいいね。」とか「両親どっちも運動オンチだからこの子もきっとダメだろう・・・」というような言葉を耳にします。これは「運動神経は遺伝する」という前提の言葉ですが、それでは運動神経は遺伝するのでしょうか。

 この「運動神経」が遺伝するかというお話ですが、結論からいうと「ほとんど遺伝しない」が正解です。厳密に言うと遺伝する要素もあり、例えば筋繊維の質(速筋、遅筋の割合)や、筋と骨の付着部位、身長などは遺伝の影響があります。

 そもそも、単に「筋力がある」とか「体が柔らかい」といった事を「運動神経が良い」とはあまり言いません。一般的には「どんなスポーツでもそつなくこなす」「運動センスがいい」ということを指すことが多く、「運動神経」=「運動センス」と言えるでしょう。

 運動神経の良し悪しを決めるのは環境と年齢です。特に、ゴールデンエイジまでの環境が非常に大切になります(ゴールデンエイジについては前月号をご参照ください)。それではなぜ、「運動神経は遺伝する」と思っている方が多いのでしょうか。それには以下のような理由があると私は考えています。

 まず、スポーツが得意であったり、運動が好きな親は、体を動かして子どもと遊ぶ機会が多く、経験的に体の動かし方が分かっているので、遊ばせ方も上手い傾向にあります。また親も一緒になって体を使って遊ぶので、体を動かすことに対して子ども肯定的な感情が芽生えやすいということが挙げられます。

 つまり、運動神経発達のカギとなる時期に、一番身近で一緒にいる事が多い「親」の影響を強く受けるため、親の「運動神経」が遺伝しているように感じるのです。

 したがって、いくら親が運動神経が良くても、子どもが運動に消極的になるような接し方をしたり、体を使う環境が無なければ、子どもの運動神経は向上しませんし、逆にいくら親が運動オンチであっても、適切な運動刺激を子どもの頃から与えてあげると運動センスは養われていくのです。

 社会様式が変化し続けている現代では、昔のようにほっておいても勝手に子ども達があつまって外で遊んでいるという状況を目にすることは少なくなってきました。これから遊ぶ環境を確保することはさらに難しくなってくると思いますので、その環境を周りの大人たちがどのように作り出すかに子ども達の未来がかかっていると言っても過言ではないでしょう。